福岡高等裁判所 昭和30年(う)1637号 判決
判決理由〔抄録〕
そこで右四名に対する致死傷の事故の発生が被告人の業務上の注意義務を懈怠したことによる過失に基くものであるかどうかを案ずるに、積荷を満載した普通貨物自動車を運転して山沿いの下り勾配道路を時速八粁位の速度で進行中、速度を殆んど人の歩行速度(時速約十粁以下)にまで低下徐行して右折しなければ欄干に車体の衝突する虞のある程、運転操縦の困難な橋に差しかかる手前約四十二米位の地点において、突如荷台後部の下部辺に金属性の異常音を聞いて、エンジンから後部車輪に動力を伝導する装置部分の故障と直感し且つ自動車の走行速度もエンジンの回転速度を上回って二十五粁位の速度となった場合においては、該貨物自動車の運転者は動力伝導装置箇所の故障は下り勾配において自動車の加速度の上昇することを阻止することができず、従って前記橋通過のための右折に際し必要とせられる速度の低下は、フートブレーキの操作だけでは必らずしもこれを期待することができないから、直ちに急停車するか或は少くとも右折する直前に一応停車して、故障の箇所を点検整備し、速度の低下が可能であることを確認した上、始めて進行し以て橋を通過するための右折に際し生ずることあるべき一切の災害を未然に防止すべき業務上の注意義務があるものと解するのが相当であるところ、被告人は前記(三)で認定したとおり木材を満載した貨物自動車を運転して那珂川西岸の山沿いの下り勾配道路を時速八粁位の速度で進行中、釣垂橋の前方約四十二米位の地点で荷台後部の下部辺に異常音をきいて動力伝導装置箇所の故障と直感したばかりでなく、走行速度もエンジンの回転速度を上廻って益々早くなり二十五粁位となったのにもかかわらず、フートブレーキの操作だけで必要な速度の低下が得られるものと軽信して直ちに急停車もせず又釣垂橋手前での停車の措置も採らないまま、漫然進行を続けて釣垂橋上に右折しようとしたので、遂に自動車の左側先端を下流側欄干の中央部辺に衝突させ、よってそこの欄干に腰かけていた者のうち四名に致死傷の結果を生ぜしめたのであるから、右事故の発生は前段説示したところにより被告人が貨物自動車の運転者として業務上遵守すべき前記注意義務を懈怠したことによるものであって、被告人に業務上の過失の存することが明らかである。